【第六巻】ドライブ中に見た幻の赤い車

私が生まれるずっと前、 父と母が若かりし頃のドライブでの出来事です。

その日、父の運転でドライブを楽しんでいたふたり。天気も良く気持ちの良い風を受けながらバイパスを走っていたそう。しばらくすると母は、後ろからスピードを出して追い抜いていく赤い車を見つけました。

「あの赤い車、危ないね!」

母は父に話し掛けたが、父は判っているのかいないのか。運転席側からは見えないのかな?と思い、しばらく走っていると、いつの間にかまた同じ車がスピードを上げて他の車の間を縫うように走っているのが見えました。

「ちょっと、またあの車だよ。危ないから気をつけてね!」

母はもう一度忠告をしたが、父は「うーん?」と言う程度。その車を運転している人の顔までは見えないけれど、窓からチェックの長袖シャツがチラチラと見えている。

母は赤い車が気になりつつも、それからしばらくの間は何事もなく順調に進んでいました。そしてそのうちに赤い車も見えなくなって、楽しいドライブは続きます。

しかし、まもなくバイパスの出口付近というところまで近づくと急に大渋滞となり、車はノロノロと動くのがやっと。ようやく出口まで来ると、どうやら事故があったらしく、トラックが横転し道路をふさいでいる。そしてその横に、ぺったんこに潰れた例の赤い車が見えた。

「あっ!やっぱりあの車だよ

母はそう言って現場で作業をしていた警察の人に「チェックのシャツ着た人じゃなかったですか?」と聞いてみた。すると「はい、そうです!もしかしてお知り合いですか?運転していた方、亡くなったのですが身元がわからなくて…」 との事。母は、

「知り合いじゃないんですけれど、ついさっきスピードを出して走っていたから危ないなぁと思ってたんですよ」と伝えた。

警察の人は急に顔を曇らせ不審そうに聞いてきた。

「見かけたのはどのくらい前ですか?」

母はせいぜい30-40分くらい前だというと、更に不審そうな顔。

「この車はもう2時間以上前に事故を起こして、ここで作業しているんですが…」

「えー、うそ!ついさっき見たんですよ、着ているシャツも見えたし…」と一緒にいた父に同意を求めるも、父も不審そうに「さっき運転中に赤い車の話しをしていたけれど自分は一度も見なかったんだよね」とのこと。

「やだ、何?私何を見たわけ?まったく別の車?いやいや、あの赤い車でシャツも同じだし。それでも、運転席と助手席に座っていたのに(父)がまったく見えていなかったって言うのは変でしょう?」

その後は謎だけが残り、結局なんだかわからないままにこの話は終わってしまいました。母、謎は謎のままだけど、晴れた明るいバイパスを猛スピードで走り抜ける赤い車の姿は目にしっかり焼き付いているそうです。数時間前に走り去った赤い車の「残像」だったのでしょうか?

以上、幻の赤い車を見たという母の不思議な体験談でした。

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