【第六感】日金山で会った白装束の女性

これは母がまだ学生だった頃のお話しです。

ある晴れた気持ちの良い日。友人と二人で「十国峠(じっこくとうげ)」へ続く「日金山(ひがねさん)」の登山道を登っていました。

日金山には伊豆地方で亡くなった方の魂が集まると言われ、春秋の彼岸に日金山に登ると、会いたい人の後ろ姿を通行人の中に見られるとか。また、ここには「石仏の道」があり、一体ずつ異なる表情の仏様が多数鎮座していて、その中のひとつに会いたい人の面影を見ることが出来るとか。そんな伝承がある登山道だそうです。

途中、少し開けた場所で休憩をしていると、白装束をまとった女性がつづら折りになっている登山道をゆっくり登ってくるのが見えました。

女性は片足の草履の鼻緒が切れてしまったようで片手に草履を持っています。すると友人が「あ、あの人、A旅館の〇△さんだわ」と教えてくれました。母は知らない人であったけれど「へえ、ひとりで白装束で登って来たんだな」くらいに思い、その後はまた山頂まで登山を楽しみ家に帰りました。

その日の夜、家に近所の知り合いも来ていて一緒にお茶を飲んでいる席で母が祖母に今日あった出来事を話すと、知り合いの男性が目を丸くして家から飛び出して行きました。

後で詳しく話を聞くと、その「A旅館の〇△さん」はもうすでに亡くなっていたとのこと。そして亡くなった時に着せた白装束の鼻緒が少し緩かったけれど、そのまま見送ったそうです。

母の話しを聞いたご遺族の方が「ああ、〇△ちゃん、やっぱり鼻緒が緩かったんだね…」としんみり話されたとか。

母は、あの日見た白装束の女性が誰なのか、顔も名前も知らなかったけれど、一緒にいた友人が偶然知っていて母に教えてくれたおかげで、真偽は定かでなくともご遺族の耳に入れることが出来たんだな、と思い、後日友人に一連の流れを説明しました。

すると、友人は「???」とまったく話がかみ合わない。

友人曰く、あの日母と一緒に日金山の登山道を歩いたけれど、途中そんな出来事があったことはまるで覚えていないとのこと。更に「A旅館の〇△さん」のこともまるで知らない人だと。

今度は母が「???」状態。

また家に帰った後に、祖母や知り合いにその話をすると「もしかしたら、そういった感受性の強い(母)に伝えたくて、一緒にいた友人の口を借りたのかもしれないね」ということで落ち着いたそうです。

不思議ですね。

母の話しなので私は信じています。当時は周りも巻き込んでいるので、完全な作り話でもないでしょうし。もちろん実際には、どこでどうなってこうなったのかよくわかりません。

でも、世の中知らないことだらけ。

ここに科学的な証明なんていらないもんね。

誰も被害を被ることがなく、そしてもう会えない大切な人と家族がほんの少しでも、見えない心のどこかでふれあえたと思える小さなきっかけであったならば、それは素敵な時間だったんじゃないかなって思います。

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